選挙の度に絶対思い出す。
あれは雨の日曜日だった。
遥かに小さい私にはだだっ広く見えた中学校の教室。
そこに私は濡れた傘を持って、お母さんの後ろにくっつくようにして入った。
狭い筆記台の上で、母は何やら書いている。
見上げた天井近くの壁には一面にびっしり漢字が並んでた。
私はいくつだか覚えないが、漢字が読める年齢ではないことだけは確か。
母が何をやっているのかも理解してはいなかった。
小難しい顔して何やら書いている母と、
とりま静かにした方が良さそうな場所。
「なにやってるの?」
と好奇心旺盛な私は母に聞く。
母は答えない。
「ねーねーなにかいてるの???」
少し大きな声でやっぱり聞く。
けれど母は答えない。
故意の無視だ。
私は途端につまんなくなった。
教えてくれたっていーじゃんか。
ぷんぷんしながらきょろきょろと状況を分析。
雨の匂いが立ち込める薄暗い室内で、
静かなのに妙にざわついた雰囲気。
簡素な筆記台がガタガタと揺れ、
鉛筆とアルミがぶつかりあって不似合いな音を立てていた。
「ママわかった!」
丸っきり何をやってるのかわからなかったけど、
一個だけわかったことがある。
尚も無視を決めこむ母に向かって指差して答えた。
「ママがかいてるのってあれでしょ!あのもじ!!」
母はこの時初めて口を開いた。
「ち、違うよ!」
私は納得がいかない。
「ちがわないよ!あのもじだもん!おんなじだもん!!!」
「アンタ黙んなさい!」
バシッ!
母は頭を叩いて、さっさと投票箱に向かってしまった。
私は漢字が同じことを発見出来たのに、褒められこそすれどうして叩かれなきゃならないんだと非常に憤った。
私にあるのはそんな記憶。
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